映画とギターと珈琲と。

映画や本の感想、学んだことなど、割と自由に書きます。

横道世之介

 

死は、いつだって突然に訪れる。

 

横道世之介」という映画の作中で、こんな言葉が出てくる。

『僕が死んだら、皆、泣いてくれるかなぁ。』

 

主人公の世之介(高良健吾)は、大学生の頃、おばあちゃんを亡くし、

地元の九州へと帰省していた。お葬式に参加するためだ。

帰り道、高校生のころに付き合っていた元恋人と遭遇。

その子との話の中で、世之介は呟いた。

 

元恋人は、世之介に告げる。

『世之介が死んだら、きっと、皆、笑うんじゃないかな。そんな気がする。』

 

このシーンは、世之介の人間性を最もよく表している。

少なくとも僕はそう感じるし、一番好きなシーンだ。

 

 

大学進学と同時に上京した主人公、横道世之介

へらへらしていて、頼りなくて、どこか少年のような雰囲気を持つ青年。

憎めなくて、お人好しで、誰にでもわけへだてなく接するその姿に、

周囲の人たちは影響を受け、心穏やかになっていく。

 

彼には、人を幸せな気持ちにする ”なにか” があった。

 

 

物語は、世之介と仲の良かった人々の現在と、回想シーンで進んでいく。

特別すごいわけでも、強烈な印象を残しているわけでもないけれど、

思い出すと、ニヤッとしてしまう。

そういえば、面白いやつがいた。

とっても、愛に溢れたやつだったな、と。

 

 

僕は、この映画を見終えた時、世之介と一緒に過ごしてきた感覚になり、

彼が死んでしまったという実感が、ふつふつとこころに湧いてきた。

ああ、もう彼はこの世にはいないのだ。そう感じた。

 

 

思えば世之介は、おもいでのような人だった。

どこか浮世絵離れていて、ふわふわとした雲のようで。

あたたかく、包み込んでくれる。

それでいて、公園に遊びに行った5歳児のように、好奇心だけで

どこまでもいってしまうようなところも。

くったくない笑顔が似合う。

まっすぐで、鈍感で、女心なんてわからない。

 

ただ、一緒にいるだけで、なんだか自分が自分でいられるような

そんな安心感を抱いてしまう。それが、世之介だった。

 

 

世之介は、いつだって僕の心の中に居続ける。

ずっと、友達でいてくれるだろう。

それだけで、僕は、自分らしく在れるような気がする。

 

世之介、ありがとう。この世に生まれてきてくれて。

 

 

 

fin.